公開シンポジウム

ペンギンを通して学ぶ生物の環境適応と生物多様性保全

日時: 2019年9月16日(月・祝)9時45分~12時30分
場所: 東京芸術センター天空劇場(東京都足立区千住1丁目4-1) 参加費:無料
コーディネーター: 森 貴久(帝京科学大学)・山本誉士(統計数理研究所)
※事前予約不要、先着400名(9時から開場・受付開始)

 「eco(エコ)」という言葉は、誰もが一度は見たり聞いたりしたことがあると思います。元々は生物や自然について学ぶ生態学という意味のecology(エコロジー)の頭文字からきていますが、一方でeconomy(エコノミー:経済)という意味も含まれています。環境保全か経済発展か、そのどちらか一方だけではなく、両立させることで私たちの豊かな生活に繋がります。来年2020年に開催される東京オリンピックでも「環境保全との両立」がテーマとして掲げられており、自然や生物との共存(生物多様性の保全)は、私たちがこれから未来のために考えなければならないことの一つです。
 そこで、今回はペンギンを題材として取り上げ、生物がどのように環境に適した形や行動をしているのかについて学び、現在直面している気候変動や人間活動による影響を紹介します。そして、最後にコメンテーターを交えたパネルディスカッションにより、生物多様性の保全において重要なポイントである、環境変化がなぜ・どのように生物に影響を及ぼすのか(メカニズム)について一緒に考えていきたいと思います。
 涼しそうなペンギンの話を聞きながら、熱い生物多様性の保全について学んでみませんか?皆様の積極的なご参加をお待ちしております。

プログラム

9:00
 開場・受付開始(先着400名)

9:45 〜 10:00
 趣旨説明:生物の環境適応と生物多様性保全 森 貴久(帝京科学大学)

10:00 〜 10:25
 ペンギンと地球の6600万年史 安藤達郎(足寄動物化石博物館)
 最古のペンギン化石は6200万年前の地層から発見されており、ペンギンはそれを超える長い進化史を持っていると考えられる。現在我々が目にしているペンギンは、ペンギン史全体の中では比較的最近に出現したグループであり、ペンギンは現在に至るまでに幾多の環境の変動を、グループの入れ替えとともに乗り越えてきた。生物の進化と環境の変動には密接な関係があり、環境の変動は生物に絶滅をもたらすとともに、新たなグループの出現を促しても来たのである。本講演では、6600万年を超える地球環境の変動と、それに伴うペンギンの進化史の変遷を紹介する。ペンギンの進化史は、地球外からの影響、地球自身の変化、共存する生物の入れ替わりなどのさまざまな要因によって織りなされてきたのである。

10:25 〜 10:50
 水中環境に適応したペンギンの行動・形態的特徴 佐藤克文(東京大学大気海洋研究所)
 ペンギンは鳥類であるが飛翔ではなく遊泳に都合が良い形態や行動を進化させた。飛翔に有利な軽い体は,水中では大きな浮力をもたらし、潜降していく際の抵抗となってしまう。そこで、ペンギンは海水に近い密度の体を手に入れた。ところが、せっかく重たくした体を軽くするかのように、空気を大きく吸い込んでから潜水を開始することが判明した。海生哺乳類では空気を吐き出してから潜る行動が知られており、それが密度を海水に近づけ、同時に減圧症(潜水病)を防止するための理にかなった行動であると解釈されている。ペンギンが何故空気を吸い込んでから潜るのか、現時点で私が考える仮説を紹介したい。

10:50 〜 11:00
 休憩

11:00 〜 11:25
 気候変動がペンギンに与える影響 高橋晃周(国立極地研究所)
 地球規模での気候の変動や長期的な変化は、様々な地域の野生動物に対し直接的・間接的に大きな影響を与えていると考えられており、特にペンギンは南極域の海洋生態系全体への影響を示す指標種としてその動向が注目されている。しかしながら温暖化を含む気候の変動・長期変化の影響を明確に捉えるには数十年以上の研究が必要であり、研究事例はまだ限定的である。本講演では、気候変動が営巣地や採食場所の環境変化を通じてペンギンに与える影響についての研究をレビューする。また演者らの研究チームが取り組んできた、南極域の海氷環境の変化とアデリーペンギンの行動・生態の関係についての研究を紹介する。

11:25 〜 11:50
 人為活動がペンギンに与える影響
  山本誉士(情報・システム研究機構データサイエンス共同利用基盤施設 / 統計数理研究所)

 開発による生息地の改変や消失、漁業活動による網への混獲や餌資源の枯渇、船舶の往来や海上油田による重油汚染、マイクロプラスチックの摂取など、現在ペンギンたちは様々な人為的影響を被っている。気候変動による影響に加え、このような人為活動に起因する生存率や繁殖成績の低下が、繁殖地での個体数減少に繋がっていることが報告されている。本講演では、人為活動がペンギンに及ぼしている影響をレビューし、特に彼らの海での行動に着目し、進化の過程で獲得してきた行動を持つが故に陥ってしまう「罠」について解説する。そして、ペンギンと人間が共存していく上で一つの課題である保護区の設定について、今後どのような点について考えなければならないのかを議論する。

11:50 〜 12:00
 休憩

12:00 〜 12:30
 総合討論(コメンテーター:上田一生・日本ペンギン会議)

 

 

本大会は、サントリーホールディングス株式会社、および株式会社モンベルの協賛をいただいています.